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札幌地方裁判所小樽支部 昭和37年(ヨ)85号 判決

申請人 荒尾佳光

被申請人 コドモわた株式会社

主文

一、申請人が被申請人に対し雇傭契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二、被申請人は申請人に対し昭和三七年一二月三日以降毎月二五日限り一月金二万五五〇〇円の割合による金員を仮に支払え。

三、申請費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

第一当事者双方の申立

申請代理人は「申請人が被申請人に対し雇傭契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。被申請人は申請人に対し、昭和三七年一二月三日以降一月金二万五五〇〇円の割合による金員を毎月二五日限り仮に支払え。申請費用は被申請人の負担とする。」との判決を求め、被申請代理人は「本件仮処分の申請を却下する。申請費用は申請人の負担とする。」との判決を求めた。

第二申請の理由

一、被申請会社は函館市追分町三六番地に本社を有し、札幌市、小樽市、仙台市等に支店を置いて主として綿の製造販売業を営むことを目的としている会社であり、申請人は被申請会社に昭和三一年三月に雇傭され、昭和三二年六月以降従業員として同会社小樽支店に勤務するものであつて、かつ同会社の従業員を以て組織するコドモわた労働組合の組合員である。

二、しかるところ被申請会社は昭和三七年一二月三日申請人に対し申請人を懲戒解雇する旨の意思表示をし、同日以降申請人を従業員として取扱わず、その就労を拒否するにいたつた。

三、しかしながら申請人には被申請会社より懲戒解雇を受ける理由は全然なく右の懲戒解雇は無効であつて、申請人は依然として被申請会社の従業員たる地位を有する。

四、従つて被申請会社は申請人に対し給料を支払うべき義務があるところ、申請人が被申請会社から懲戒解雇の意思表示をうけた当時における申請人の給料は月額金二万五五〇〇円であり、その支払期日は毎月二五日の定めである。

五、申請人は被申請会社に対し懲戒解雇無効確認等の本訴を提起するため準備中であるが、本案判決の確定を待つていては労働者である申請人にとつてその生活に著しい損害をうけるので本件仮処分申請に及んだ。

第三被申請人の答弁及び主張

一、申請の理由一、二の事実は全部認める。同四の事実中申請人の給料月額支払期日が申請人主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。同三、五の事実は否認する。申請人は懲戒解雇をうけて以来小樽地区労働組合会議のオルグとして勤務し生活の資を得ているから本件仮処分の申請はその必要性がない。

二、被申請会社が申請人に対してなした懲戒解雇は次の事由による。即ち

(一)  申請人は昭和三七年七月五日被申請会社札幌支店において労使懇談会の開催されるのを聞くや、その所属する同会社小樽支店では恰度決算期をひかえて事務繁忙なのに拘らず緊急私用のためといつて上司をいつわり、有給休暇願を出したまま、上司の許可もうけず、勝手に同会社札幌支店に行き同支店休養室において開催中の労使懇談会場に臨み、会議中の同会社取締役会長河村織右衛門に面会を強要し、拒絶されるや反抗的言辞を弄して右会議の運営を阻害し右会長の業務の執行を妨げた。

右は同会社小樽支店従業員に対する懲戒解雇事由を定めた同会社小樽支店就業規則第七八条第九号の「他人に対し危害を加え又は故意にその業務を妨げる行為があつたとき」に該当する。

(二)  申請人は更に同所で一時間以上坐り込みを続け不当にも右会長等上司の退去命令に従わなかつた。右は同就業規則第七八条第一三号の「職務上の指示命令に不当に反抗して事業上の規律をみだしたとき」に該当する。

(三)  申請人は昭和三六年八月三日北海道地方労働委員会事務局会議室で開かれた申立人コドモわた労働組合、被申立人コドモわた株式会社間の昭和三六年道委不第一〇号コドモわた(株)労組法第七条関係事件の審問期日の公開の席上、かねて盗写していた被申請会社小樽支店長から東京在住の同会社取締役会長宛の営業報告書の写しを同会社のコドモわた労働組合に対する支配介入の資料として提出した。右文書には「今後の従業員組合の育成については大いに協力し会社発展のため奮闘いたしたいと存じます」旨の記載があり、右は同会社の組合対策に関する秘密事項であつて、右文書は同会社によつて秘密扱いの文書であるのに、申請人は権限なくこれを外部に発表して同会社の秘密を漏らしたものである。右は同就業規則第七八条第一〇号の「職務上得た会社の秘密を社外に漏らし又は故意に会社の不利益になる事実を漏らしたとき」に該当する。

(四)  昭和三四年八月から同年一〇月にわたり被申請会社小樽支店の印刷物納入者である訴外藤島印刷株式会社の外交員福田が被申請会社小樽支店に対し不正に代金の水増請求をし又は未納品の代金請求等をし、その受領金の一部を着服横領していたことについて申請人は当時同支店庶務係として同支店の印刷物の発注、領収、代金支払等の事務を取扱つていた関係上よくこれを、知悉していたにも拘らず何等これを阻止することなく代金支払等をして同人の不正行為の遂行に協力した。右は同就業規則第七八条第一四号の「業務に関し不正不当の金銭物品を授与したとき」に該当する。

(五)  被申請会社が昭和三七年一一月二〇日申請人に対し申請人を同会社小樽支店釧路営業所に転勤させる旨の業務命令を出したところ、申請人は正当の理由なくして右異動の業務命令を拒否した。右は同就業規則第七八条第一五号の「正当の理由なく異動の業務命令を拒否したとき」に該当する。

(六)  申請人には右の如き懲戒解雇事由があつたので、被申請会社は申請人に対し一応諭旨の上退職せしめようとして昭和三七年一一月二七日、退職願を提出するよう勧告したところ、申請人はこれを拒否したので、同会社は昭和三七年一二月三日前記就業規則第七六条第四号の「諭旨退職、退職願を提出するよう勧告しこれを提出しないときは懲戒解雇とする」との規定に従い、遂に申請人を懲戒解雇するにいたつたものである。

第四被申請人の主張に対する申請人の答弁及び反論

一、被申請人主張の解雇理由(一)については昭和三七年七月五日被申請会社札幌支店で労使懇談会が開催されたこと、申請人が同日有給休暇願を出し、同支店に行つたことは認めるが、その余の事実は否認する。

二、同(二)については否認する。

三、同(三)について昭和三六年八月三日北海道地方労働委員会事務局会議室で開かれた昭和三六年道委不第一〇号コドモわた(株)労組法第七条関係事件の審問期日の公開の席上、同会社小樽支店の営業報告書が同会社のコドモわた労働組合に対する支配介入の証拠として提出されたことは認めるが、その余の事実は否認する。右営業報告書は申請人が同委員会に提出したものでなく、右組合が提出したものである。しかも右営業報告書は、同会社小樽支店から同会社取締役会長に出す、同支店の月例報告であり、何等秘密にぞくするものではなく従前からも何等秘密扱にされていないものである。

四、同(四)については昭和三四年八月から同年一〇月にわたり被申請会社小樽支店の印刷物納入者である訴外藤島印刷株式会社の外交員福田が自己の職務に関し不正を行つていたこと、被申請会社小樽支店の印刷物の発注、領収、代金支払等の事務は申請人が同支店庶務係として取扱つていたことは認めるが、その余の事実は否認する。申請人は昭和三四年一〇月頃右福田から訴外藤島印刷株式会社の社長が来ても訴外会社発行の領収書など見せないでほしいと云われ、不審に思つた結果、右福田が被申請会社より集金した金を一部横領していた事実を初めて知るとともに、訴外会社社長よりも右福田の右横領の事実を詳細に聞いたので、直ちに被申請会社小樽支店の岡野総務課長に報告し同人の指示に従い、以後訴外会社には発注しないこととしたのである。被申請会社は右福田の行為によつて何等の損害も受けておらず、申請人も右福田に対し何等不正に金銭等を授与したことなどない。

五、同(五)については申請人が被申請人主張の異動の業務命令を拒否したことは認めるが、右は正当な理由によるものである。即ち、昭和三四年五月被申請会社の従業員を組合員とするコドモわた労働組合が結成され、同会社小樽支店にその事務所が設置されて以来申請人はその委員長に選出され、組合活動の中心的存在として終始活発な組合活動を続けてきた。同会社はこれを嫌い申請人等組合幹部に対し種々の嫌がらせや、圧迫を加え、時には、申請人に対し昇進を示唆して申請人を懐柔しようとする等、あらゆる方法を以て申請人を組合活動から手をひかせるよう働きかけたが申請人はこれに応ぜず依然として組合活動を続けてきた。そこで被申請会社は申請人の右組合活動を弱めるため、昭和三七年八月一日、申請人を他の男子組合員全員とともに組合活動に不便なる札幌市所在の被申請会社小樽支店北海道営業所の庶務課庶務係に配置転換し、更に、同年八月二七日申請人を同営業所庶務課庶務係から同販売係に配置転換し北見地区担当を命じた。このため申請人は地方販売員として地方廻りの為(庶務課は内勤である)出張しなければならない機会が多くなつた関係上、組合活動を行うことは極めて困難な状態に立ちいたつた。ところが、被申請会社はこれをもつて満足せず同年一一月二一日申請人の組合活動を不可能にし、ひいては組合をかい滅せしめんと考え、申請人に対し遂に全く組合活動の出来ない遠隔地であり、非組合員しかいない同会社小樽支店釧路営業所に転勤すべき旨の業務命令を出すにいたつた。しかしながら右業務命令は申請人が組合活動をしたことの故をもつて申請人に対しなされた不利益処分であり、又組合に対する支配介入であること明らかであつて不当労働行為といわねばならない。従つて右業務命令は当然無効であるから申請人がこれを拒否したのは当然である。

六、以上の如く申請人には被申請人主張の如き前記就業規則所定の懲戒解雇事由該当の所為がないから、被申請人が同就業規則所定の懲戒解雇事由ありとしてなした申請人に対する懲戒解雇は無効といわねばならない。

第五申請人の主張に対する被申請人の反論

申請人がコドモわた労働組合結成以来その委員長に選出され、終始組合活動の中心的存在であつたことは認めるが、被申請人のなした異動の業務命令は右に関係なく被申請会社内部における人事異動の一環としてなされたものであつて何等不当労働行為ではない。即ち、被申請会社小樽支店長池田卓二が昭和三七年八月二三日同会社仙台支店から転任してきた当時、従来よりの残業拒否闘争等の為、同会社小樽支店では約二か月分の業務が遅滞していたので被申請会社はその業務の正常化を計るため、人事異動の必要のあつたこと、又被申請会社はその営業方針に従い、昭和三四年頃から同会社の営業部門中販売部門を独立させ、既に設立登記済のコドモわた寝具株式会社(札幌市所在)にその経営を移譲することを予定していたので、その前提として、逐次人事異動をする必要に迫まられていたこと、(このため前記の営業方針を定めた昭和三四年八月八日当時コドモわた労働組合と話合の上、同組合は同会社の右方針の実現に協力する旨の協約が成立していた。)等により申請人の異動を含む一連の人事異動を行つたものである。しかも申請人の被申請会社小樽支店釧路営業所への転出は同営業所次長力石克己が同営業所在勤約三年を経過しており同支店北海道営業所への転勤を予定していたのでその後任として同会社小樽支店勤務約四年に及び、その学歴、経歴からいつて最適任と認められる申請人を特に抜てきしたものであつて、申請人にとつては栄転にあたり、何等申請人に対する不利益処分ではない。

第六疎明関係〈省略〉

理由

一、申請人が被申請会社に昭和三一年三月雇傭され昭和三二年六月以降被申請会社小樽支店において従業員として勤務していたところ昭和三七年一二月三日被申請会社より申請人に対し懲戒解雇する旨の意思表示のあつたこと被申請会社主張の就業規則の内容がその主張の如きものであることは当事者間に争がない。

二、そこでまず被申請会社主張の懲戒解雇事由の有無について判断する。

1  被申請会社主張の懲戒解雇理由(一)、(二)について

昭和三七年七月五日被申請会社札幌支店で労使懇談会が開催されたこと、申請人が同日有給休暇願を出し、同支店に行つたことは当事者間に争がない。

証人河村織右衛門、同岡野正の証言(但しいずれも後記措信しない証言部分を除く)及び申請人本人尋問の結果を綜合すれば、被申請会社においては昭和三四年五月従業員を組合員とするコドモわた労働組合が結成され申請人がその委員長となつていたが、その後間もなく昭和三四年八月別に従業員を組合員とするコドモわた従業員組合と称する所謂第二組合が結成されたため、二個の組合が存在するにいたつたこと、昭和三七年七月五日被申請会社札幌支店において右従業員組合の組合員と被申請会社との間に労使懇談会が開かれることとなつたが、これを知つた申請人は当時コドモわた労働組合においても労働条件等につき被申請会社と交渉しており右従業員組合と歩調を合わせ同組合とともに被申請会社に団体交渉の申込をしたところ、被申請会社より何等の回答がないので右労働組合は従業員組合とともに北海道地方労働委員会に斡旋の申入をしていた時であつたので従業員組合単独で被申請会社と交渉しないよう従業員組合の委員長に伝えたいと考え、同日午後年次有給休暇願をその所属する同会社小樽支店岡野総務課長に提出してその許可を得た上直ちに被申請会社札幌支店に赴いたこと。同支店においてはその休養室を会場として被申請会社と右従業員組合との労使懇談会が開催されていたので、申請人は右休養室傍の事務室において女子従業員を通じて会議中の右従業員組合の委員長に面会を求めたこと。ところが右会議に出席中の被申請会社取締役会長河村織右衛門が自ら申請人の待つていた右事務室に出てきて申請人に向い大声をあげて詰問し、その手を引張つて事務室の外へ押出そうとしたので申請人はやむなくその手を振り払い同会長に対し右従業員組合の委員長に会わせてほしいと交渉したところ、同会長はこれを拒絶したので両者の間に言い争がおこつたが、傍に来ていた重役等が仲に入つた結果、申請人は同支店支店長室で同会社河村社長、同河村会長等と話合うこととなつたこと。そのため労使懇談会は他の重役の手で進められたが、間もなく右河村会長は中座して労使懇談会場に行つたので、申請人は居残つた同社長に対して会議が終るまで待つていたいと申入れたところ、同社長ももう少しで終るだろうから待つていてくれ、その間自分と話をしようといいこれを諒承したので、申請人は同社長と二人で組合問題等について話をしていたこと。その間労使懇談会は右河村会長主宰の下に進められ午後六時過頃会議が終了したので申請人は従業員組合の組合員に会いに会場に行き組合員と挨拶をしていたところ、中野札幌支店長が傍に来て、申請人に向い「すぐ出て行け」と云つたので、申請人はすぐ事務室に戻り、そこで同組合員等を待つていたところ、更に同会社常務取締役河村寿郎が来て申請人に対し同支店外で待つているようにといつたので申請人は右河村としばらく押問答したが、間もなく同支店の外に退出するに至つたことが認められる。右認定に反する証人河村織右衛門、同岡野正の各証言部分は当裁判所これを採用しない。右認定の事実に徴するときは、申請人が被申請会社従業員組合の委員長に面会を求めたことから同会社河村会長の主宰する労使懇談会が一時中断されたことは認められるが、同会長主宰の下に会議は進められこれを終了することを得たのであるから、これをもつて同会長の会議運営の業務を故意に妨げたものとも言えないし、又同会長等上司より退去を求められその為に多少のいざこざのあつたことは認められるが、これをもつて申請人が右労使懇談会場に坐り込み上司の指示命令に反抗して同会社の業務上の規律をみだしたものともいうことはできない。従つて申請人に被申請会社主張の前記就業規則第七八条第九号第一三号該当の所為ありとなすことは出来ない。

2  被申請会社主張の懲戒解雇理由(三)について。

被申請会社主張の日時場所において開かれた北海道委不第一〇号コドモわた(株)労組法第七条関係事件の審問期日の公開の席上、被申請会社小樽支店の営業報告書の写が同会社のコドモわた労働組合に対する支配介入の証拠として右組合側より提出されたことは当事者間に争がない。

ところで被申請会社は右営業報告書には「今後の従業員組合の育成については大いに協力し会社発展のため奮闘致したいと存じます」なる記載があり、右は同会社の労働組合対策に関する事項であつて前記就業規則第七八条第一〇号の「会社の秘密又は会社の不利益になる事実」に該当すると主張するが、右就業規則にいう秘密又は不利益となる事実とは会社の取引上或は経済上のものをいうのであつて、会社の組合対策に関する事項の如きはこれに含まれないものと解するのを相当とする。従つてたとえ申請人に被申請会社主張の如き所為があつても、これをもつて同就業規則第七八条第一〇号に該当するものとなすことはできない。

3  被申請会社主張の懲戒解雇理由(四)について。

昭和三四年八月以降同年一〇月頃迄の間訴外藤島印刷株式会社が被申請会社小樽支店に印刷物等を納入していたこと、申請人が同支店の庶務係として同支店の印刷物の発注、領収代金支払等の事務を取扱つていたことは当事者間に争がない。

被申請会社は、訴外会社の外交員福田が被申請会社に対し印刷物代金の水増請求等をしてその一部を横領することを申請人は知りながら代金を支払つてこれに協力した旨主張し、証人岡野正の証言にはこれにそう趣旨のものがあるが、右証言は当裁判所これを措信せず他に被申請会社主張の事実を認めるに足る証拠はない。却つて、証人岡野正の証言によつて成立を認められる乙第一六号証に申請人本人尋問の結果を併せ考えると、訴外会社の外交員である福田は前記期間中二重の請求書を作り被申請会社小樽支店に対しては正当なる請求書、領収書を渡して代金を受取り、一方訴外会社に対しては小額の請求書を渡してその差額を横領したり又は同支店よりの集金の一部を横領する等の不正行為を行つていたこと。申請人は当初右の事実を知らず、その頃右福田より訴外会社の社長が来ても訴外会社発行名義の領収書を見せないでくれといわれて不審に思い同人に聞きただした結果、同人が右の不正行為をしていたことを知るにいたつたこと。そこで申請人は直ちに同支店の岡野総務課長に告げその指示に従い一時訴外会社の取引を停止したが、その後昭和三七年頃より同課長の指示により再び訴外会社と取引を開始するにいたつたこと。右福田の不正行為によつては被申請会社には何等の損害もなかつたことが認められる。従つて申請人に同就業規則第七八条第一四号に該当する所為ありとなすことはできない。

4  被申請会社主張の懲戒解雇理由(五)について。

被申請会社がその主張の日申請人を同会社小樽支店釧路営業所に転勤させる旨の業務命令を出したこと及び申請人が右異動の業務命令を拒否したことは当事者間に争がない。

申請人は右業務命令は不当労働行為であつてこれを拒否したのは前記就業規則第七八条第一五号にいわゆる「正当な理由」にあたると主張するからこの点につき検討する。

(イ)  右業務命令が申請人主張の如く申請人の組合活動を不可能にする意図の下になされたものか否かについて考えるに、成立に争のない甲第一乃至第三号証、第八号証、証人石塚幹夫の証言により真正に成立したものと認められる甲第一三号証、第一五号証、証人熊合アイ子の証言により真正に成立したものと認められる甲第一四号証、第一六号証及び証人石塚幹夫、同熊合アイ子の各証言並びに申請人本人尋問の結果を綜合するときは、

(1) 申請人は小樽商大を卒業後昭和三一年被申請会社に入社以来組合結成に努力し、昭和三四年五月同会社従業員を組合員とするコドモわた労働組合が結成され同事務所が同会社小樽支店に設置されるや、その委員長に選任され、爾来同組合の中心的人物として同会社と団体交渉をしたり、北海道地方労働委員会に種々の申立をするなど、活発なる組合活動をし同組合にとつて欠くことのできない存在となつていたこと。

(2) 被申請会社の河村取締役会長等は申請人の組合活動を嫌い申請人が受持つていた年末調整に関する事務を取上げて第二組合であるコドモわた従業員組合の組合員にさせて申請人に嫌がらせをしたり、組合を脱退すれば係長にしてやる等申して申請人を懐柔したり、同会社の労使懇談会等の席上コドモわた労働組合や申請人の組合活動を非難する趣旨の発言をしばしばしていたこと。

(3) 被申請会社は昭和三七年八月一日申請人を札幌市所在の同会社小樽支店北海道営業所の庶務課庶務係に配置転換し、その後同年八月二七日申請人を同課販売係北見地区担当に配置転換したのでこれがため申請人は地方に出張する機会が多くなり組合活動が甚しく困難となる状態におかれたこと。

(4) 被申請会社小樽支店釧路営業所は釧路市にあり、コドモわた労働組合事務所の存する小樽市とは甚しく隔つていて申請人が同営業所に転任すれば組合活動は殆んど不可能に近い状態におかれること。

(5) 被申請会社小樽支店には当時女子組合員のみしかおらず、申請人が右釧路営業所に転任すれば組合の運営に重大なる支障を来たす状態であつた。

等の事実を認めることができ、右認定に反する証人河村織右衛門、同河村寿郎の各証言及び被申請会社代表者尋問の結果は当裁判所これを措信しない。

右認定の事実を綜合すれば申請人に対する異動の業務命令は申請人が中心となつてコドモわた労働組合を結成し、活発な組合運動をすることを快しとしない被申請会社が申請人をコドモわた労働組合事務所の所在する小樽市より遙か遠く離れた釧路市に所在する同会社小樽支店釧路営業所に配置転換してその組合活動を阻止するか、少くとも著しくこれを困難ならしめる意図を以てなされたものと認めるのが相当である。被申請会社は申請人に対し右釧路営業所に転勤を命じたのは右労働組合とは何等の関係なく専ら被申請会社の業務上の必要に基く一連の人事異動の一環としてなしたものにすぎないと主張し、成立に争のない乙第一、第二号証並びに証人河村織右衛門及び被申請会社代表者の各供述中には、右の主張を裏付けるような記載及び供述があるけれども右の証拠は当裁判所これを採用せず、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。

(ロ)  右業務命令が申請人に対する不利益な取扱いであるかどうかについて考えるに、申請人がコドモわた労働組合結成以来委員長に就任し同組合の中心的人物として活動して来たこと。申請人が被申請会社との団体交渉等を主としてやり、北海道地方労働委員会にも種々の申立をする等その組合活動は活発でありもはや同組合にとつて欠くべからざる存在となつていたこと。然るに申請人が右釧路営業所勤務となれば同営業所と同組合事務所間の距離的関係からして申請人が委員長として組合事務を処理し組合活動するに著しい困難を伴うことは前認定の通りであるから被申請会社において申請人を右釧路営業所に転勤させることは組合員としての申請人に対し不利益を与えるものであること極めて明白である。被申請会社は、申請人を右釧路営業所の次長に昇格させる予定であつたから右の転任は申請人にとつて栄転であり、何等申請人を不利益に取扱うものではないと主張するが、労働組合法第七条第一号にいわゆる「不利益な取扱い」とは、単に身分的経済的待遇上の不利益のみならず労働組合員としての活動に対し不利益を与える場合をも含むものと解すべきであるから、被申請会社にたとえその主張の如き意図があつたとしても、なお右業務命令が申請人にとつて不利益な取扱いであることに何等消長を来たすものではない。

(ハ)  従つて申請人に対する昭和三七年一二月三日付の異動業務命令は労働組合法第七条第一号所定の不当労働行為に該当するから無効のものであり申請人が右業務命令を拒否したことは固より正当の事由にもとづくものといわざるを得ない。

三、そうすると申請人には被申請会社主張の如き就業規則所定の懲戒解雇事由に該当する所為はないから、これありとしてなした申請人に対する懲戒解雇は無効のものといわねばならない。従つて申請人は昭和三七年一二月三日以降も被申請会社の従業員たる地位を有し、被申請会社に対し賃金請求権を有するものというべきところ、申請人の当時の賃金は月額二万五五〇〇円で給料支払日は、毎月二五日であつたことは当事者間に争がないから、被申請会社は、昭和三七年一二月三日以降毎月二五日限り一月金二万五五〇〇円の割合による賃金の支払をする義務を有するものといわねばならない。

四、しかるところ申請人が右懲戒解雇無効確認等の本案判決の確定を待つていては、申請人が特別の資産を有せず被申請会社から受ける賃金を唯一の生活源としている労働者としてその生活に回復し難い損害を蒙るべきことは明らかであるから、本件仮処分はその必要があるものといわねばならない。

よつて申請人の本件仮処分申請は全て理由があるから保証をたてさせないでこれを認容することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大賀遼作 広岡得一郎 佐藤寿一)

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